音声記憶を自動誤変換してしまう

私は生まれつきの 片耳難聴 です。
けれど、今の 職場 に 就職 するまで、 片耳難聴 についてあまり意識していませんでした。
自分の意識としては、「普通の人は2つあるものだけど、私は1つしかないから、その1つを大切にしていこう」というくらいにしか思っていなかったのです、、、。

◆普通に会話しているように見えて・・・

片耳難聴 者は健聴者に間違われてしまう事が良くあります。
「話が聞こえている事」と「話の内容を理解している事」は、全く違います。

一般には「話をして聞こえているから、この人は聞こえに問題がないのでは!?」と思われがちですが、実は 片耳難聴 者は、聞き耳をたてて、周りの話の流れや聞こえてない部分を推測する事に必死になっています。
けれど、話の内容が微妙に食い違っていたり、捉え間違いを指摘されたり、話を聞いていないかの様に思われてしまうことが多いのです。
辻褄が合う話であれば、危ういところで成立してしまうのですが、聞こえなかった、聞き漏らしたとは違い、全くその事柄が抜け落ちているため、とんちんかんな話になってしまっても、自覚のない状態になってしまう事が多く有りました。

具体的なエピソードがあります。

ある日 職場 に来客があり、自動販売機で冷たいお茶のペットボトルを「1本」買って来るように上司Aから指示を受けました。上司からは「200円」を受け取りました。
職場ビルの1階に行き、自動販売機を見るとお茶は「1本100円」でした。
私は手の中にある200円を見て「2本だ」と、迷う事無く2本購入し、上司Aに届けました。
当然上司Aは困惑し、私は私で「何故俺は2本買って来たのだろう?」と悩み考え込みました。
自分自身でも混乱していた所、別の上司B(センターの室長)が個人面接、 カウンセリング の時間を取って下さいました。

 ゆっくり、 カウンセリング の中で、丁寧に、状況と頭の中に残っている上司Aの音声を語りました。
確かに「1本」と言われた言葉、音声は覚えて居る。
しかし手には「200円」。
「きっと上司Aは2本と言ったのだろう」と瞬間的に自動誤変換していました。
上司Bは私の頭の中にある「音声記憶に対する不信」を導き出してくれたのです。
私が「自分自身の耳で聞こえた情報を当てにせず行動する事」が多い事を、初めて意識化した瞬間でした。

私は思い起こしてみれば、耳で聞こえた情報が現実と相違する事が多く、幼い頃から無意識に廻りの状況に合わせ、「聞こえているフリ」を身につけていました。

◆聞き返しの辛さ

相手から私に何かの依頼があった時に、私には聞こえ辛い時が多く、何度もきき返しをします。
すると、相手から「もういい…」と言われ、その人はその頼み事を自分でやるか、他の人に依頼する為に別の人を探し始め、私とのやりとりは終ってしまいます。
「聞き取れないのは、自分が悪いのだ」といつも自責の念にかられていました。

◆推測と思い込み

何度も聞き返す事を、少しでも少なくする為に、私は会話の聞き取れない虫食いの部分を推測して、「こうだろうと思い込む」という事をしていました。
その場の様子や虫食いの会話の中から推測をして、「恐らくこんな事を言っていたのだろうという思い込み行動」を選択していたのです。
又、「~が」「~は」「~に」「~へ」といった主語や接続詞を聞き逃してしまうことも多くあり、「食い違い」にさらに拍車をかけてしまっていました。

上司Bは言いました。
「君はそうやってサバイバルしてきたんだね」「その技法を身につけて来なければ居られない状況を生き抜いて来たんだね」と。

しかし同時に「でも、これからは、ここでは、そしてこの 仕事 ではその自動誤変換は致命的です」とも言われました。
暖かく厳しい言葉でした。

私が勤めている 職場 は カウンセリング の施設です。
「これではいけない!!」と 職場 、 YMTC ( 横浜心理トレーニングセンター ) で私はクライアントの皆様には勿論のこと、職員の方々に対しても全力で向き合い、大奮闘努力致しました。

上司Bからは更にバージョンアップして「自動変換を意識化する」「YMTC内では聞き返しを何度でもするように」と、命じられました。

その頃、上司Bが全職員に対して行って下さったエピソードがあります。

それは、職員の全体研修の日でした。
「ほんの少しでも、 片耳難聴 者の気持ちを皆に理解して貰いたい」と、「30分だけ、職員全員が片耳に耳栓をして 片耳難聴 を体験する時間」を設けて下さったのです。
片耳に耳栓を付けた状態でしばらく過ごし、会話や聴こえ方を体験して下さったのです

私は、この一連の体験にとても驚き感動しました。
自分の感じている「聴こえの世界」は、自分自身でしか解明や分析ができない事で、「誰も入って来れないものだ」と思い、無意識にその事に対し心を閉じていました。
しかし、 片耳難聴 の疑似体験をして下さった皆さんは、口々に
「想像していた状況と全然違う!」
「この状態が長く続けば気分が悪くなってしまう」
「音は聞こえるのに会話を理解するのが大変」
と次々と感想を述べて下さいました。

片耳難聴 者の気持ちをわかって頂けるとても貴重な体験でした。